不揮発メモリの現在と近未来のロードマップは、大きく分けて既存技術の進化と、次世代メモリ技術の実用化・普及の2つの方向で進んでいます。
1. 現在の主流と進化のロードマップ
現在、不揮発メモリの主流は、スマートフォンやSSDに広く使われているNAND型フラッシュメモリです。
- NANDフラッシュメモリ:
- 現在: 3D NANDの多層化(積層化)が急速に進んでいます。現在、200層以上、一部では300層を超える製品も開発されており、より大容量で低コストなストレージを実現しています。
- 近未来:
- さらなる多層化: 400層、500層といったさらなる積層化が追求されます。ただし、技術的な難易度が非常に高く、製造コストや歩留まりの課題が顕在化しています。
- 高密度化技術: セル構造の改良や、より効率的なデータ記録方式(QLC, PLCなど)の開発が進められています。
- 用途の拡大: SSDだけでなく、データセンターやAI、IoTなど、高速・大容量のストレージが求められるあらゆる分野でNANDの需要が拡大し続けます。
2. 次世代不揮発メモリのロードマップ
NANDフラッシュメモリの技術的限界(書き換え回数、速度など)を克服し、DRAMやSRAMといった揮発性メモリの置き換えや、全く新しいコンピューティングの実現を目指して、複数の次世代技術が開発されています。これらの技術は、それぞれ異なるロードマップを持ち、特定の用途に特化して普及が進むと見られています。
- MRAM(磁気抵抗メモリ):
- 特徴: 高速性(SRAM並み)、高耐久性、低消費電力を兼ね備えています。
- 現在: 既に組み込みシステムやIoTデバイス向けに一部が実用化・量産されています。「次世代」というより「最新」の技術として位置づけられつつあります。
- 近未来:
- 大容量化・低コスト化: 製造技術の改善により、高密度化と低コスト化が進められ、より広範な用途(例えば、サーバーのキャッシュメモリなど)でのDRAM代替を目指します。
- インメモリコンピューティング: MRAMの特性を活かし、メモリ内で演算を行う「インメモリコンピューティング」への応用が期待されています。
- ReRAM(抵抗変化型メモリ):
- 特徴: シンプルな構造、高い書き込み速度、低消費電力。
- 現在: 特定の組み込みシステムやIoT向けに実用化が始まっています。
- 近未来:
- 高密度化: 大容量化により、SSDやHDDを代替するストレージクラスメモリ(SCM)としての役割が期待されています。
- ニューロモーフィックAI: 脳の神経回路を模倣したAIチップのシナプス(接続部)として、ReRAMの活用が研究されています。
- FRAM(強誘電体メモリ):
- 特徴: 低消費電力、超高速な書き込み、高い耐久性。
- 現在: 主にICカード、スマートメーター、RFIDタグなど、低電力で高速なデータ書き込みが求められる用途で普及しています。
- 近未来:
- 大容量化: セル構造の改良により、高集積化の課題を克服し、より広範な組み込み用途への応用を目指します。
- 3D XPoint(クロスポイント):
- 特徴: NANDとDRAMの中間に位置する高速な不揮発メモリ。インテルとマイクロンが共同開発しました。
- 現状: マイクロンが開発を中止し、インテルが独自に技術を継続していましたが、現在は市場での展開が縮小しています。技術的には優れていましたが、製造コストの高さと、NANDやDRAMの性能向上により、市場での競争力を維持するのが困難になったと見られています。
全体的なロードマップの展望
- メモリ階層の変化: AIやHPC(高性能コンピューティング)の発展により、CPUとストレージ間のデータ移動が大きなボトルネックとなっています。次世代不揮発メモリは、DRAMとNANDの中間に位置する**「ストレージクラスメモリ」**として、このボトルネックを解消する役割を担います。
- 技術の融合: 今後は、単一のメモリ技術がすべてを支配するのではなく、それぞれの特性を活かした「適材適所」の使い分けが進むと見られています。例えば、AIチップではMRAMやReRAMが演算用に使われ、データ保存にはNANDが使われるといった形です。
- 新たなコンピューティングパラダイム: 不揮発メモリの進化は、**「インメモリコンピューティング」や「ニューロモーフィックコンピューティング」**といった、データ処理のあり方そのものを変える可能性を秘めており、今後の技術革新の鍵を握る分野です。
NAND型とは
NAND型とは、不揮発性メモリの一種で、主にデータストレージに使用される技術です。NANDという名前は、論理回路のNANDゲート(否定論理積)に似た構造を持つことから名付けられました。
特徴
NAND型フラッシュメモリは、以下のような特徴を持っています。
- 不揮発性: 電源を切ってもデータが消えません。
- 大容量化と低コスト化: データを保存するメモリセルを直列に接続することで、セル数を大幅に増やし、大容量化と低コスト化を実現しています。これが、SSDやUSBメモリ、スマートフォンのストレージに広く採用されている主な理由です。
- ブロック単位での書き換え: データの書き込みや消去は、特定の**「ブロック」**と呼ばれる単位で行われます。このため、HDDのようにバイト単位でデータを書き換えることはできません。
- 書き換え回数に寿命がある: セルに電流を流してデータを書き込むため、書き換え回数に限界があり、寿命が存在します。
構造
NAND型フラッシュメモリの基本的な構造は、直列に接続された複数のメモリセル(Floating-Gate Transistor)で構成されます。これらのセルは、直列に並んだ一本の「ストリング」を形成し、このストリングが、複数のストリングを集めた「ブロック」を構成します。この構造により、配線数を大幅に削減でき、高密度化が可能になります。
応用例
NAND型フラッシュメモリは、その大容量と低コストという特性から、以下のような製品に幅広く使用されています。
- SSD(ソリッドステートドライブ): パソコンやデータセンターのストレージとして、HDDに代わって主流となっています。
- スマートフォン・タブレット: 内部ストレージのほとんどに採用されています。
- USBメモリ、SDカード: 持ち運び可能なストレージとして不可欠です。
SSDやスマートフォンの大容量化は、このNAND型フラッシュメモリの技術革新、特に3D NANDと呼ばれる技術の発展によって支えられています。3D NANDは、メモリセルを立体的に積み重ねることで、平面的な限界を突破し、さらなる大容量化と低コスト化を実現しました。
不揮発メモリー開発企業は何がありますか?それぞれの特徴と売上高をマトリクスで
不揮発性メモリを開発・製造する企業は多数ありますが、NANDフラッシュメモリと次世代メモリで主要プレイヤーが異なります。特にNANDフラッシュメモリの市場は、少数の巨大企業が圧倒的なシェアを占めています。
以下に、不揮発性メモリ市場の主要企業を、その特徴と売上高(市場シェア)についてマトリックス形式でまとめます。
不揮発性メモリ開発企業の比較マトリックス
| 企業名(国) | 主な不揮発性メモリ技術 | 特徴 | 2024年上半期のNAND市場売上高シェア(推定) |
| サムスン電子(韓国) | NANDフラッシュ、MRAM、PRAM | NANDフラッシュメモリの世界的リーダーであり、圧倒的な市場シェアを誇る。デバイスからコンポーネントまで垂直統合型のビジネスモデルを持つ。次世代メモリ(MRAM、PRAM)の研究開発も活発。 | 約34% |
| SKハイニックス(韓国) | NANDフラッシュ、MRAM | サムスンに次ぐNAND市場の有力企業。NANDの積層技術に強みを持つ。インテルからNAND事業を買収し、さらにシェアを拡大した。 | 約20% |
| キオクシア(日本) | NANDフラッシュ | NANDフラッシュメモリの発明元である東芝メモリが独立した企業。NAND技術のパイオニアであり、ウエスタンデジタルと提携して生産を行っている。 | 約17% |
| ウエスタンデジタル(米国) | NANDフラッシュ | 伝統的なHDDメーカーからNANDフラッシュに事業を拡大。キオクシアと緊密な技術・生産提携関係にあり、両社を合わせると市場トップに匹敵する。 | 約13% |
| マイクロン・テクノロジー(米国) | NANDフラッシュ、DRAM | DRAMとNANDの両方で主要なサプライヤー。3D XPointの開発を中止し、NANDとDRAMに集中している。 | 約10% |
| ローム(日本) | ReRAM | 半導体・電子部品メーカー。抵抗変化型メモリ(ReRAM)の実用化で先行しており、低消費電力なIoTデバイス向けに提供している。東芝の買収にも参加し、パワー半導体分野での協業を視野に入れている。 | 非公表 (NAND市場でのシェアはごくわずか) |
| サイプレス(インフィニオン買収) | FRAM、MRAM | 強誘電体メモリ(FRAM)と磁気抵抗メモリ(MRAM)の有力サプライヤー。特にFRAMは、低消費電力・高速書き込みという特性から、車載や産業機器向けに多くの実績がある。 | 非公表 (NAND市場でのシェアはごくわずか) |
| エバースピン・テクノロジーズ(米国) | MRAM | MRAMの専業メーカーとして知られる。特に高速なMRAM技術に強みを持ち、産業機器やエンタープライズ向けの用途に特化している。 | 非公表 (NAND市場でのシェアはごくわずか) |
注記:
- 上記の売上高シェアは、主にNANDフラッシュメモリ市場のものです。次世代メモリ(MRAM, ReRAMなど)はまだ市場規模が小さく、公的な売上高シェアデータはほとんどありません。
- 売上高シェアは四半期ごとに変動するため、上記の数値はあくまで目安です。
- 東芝は上場廃止後、非公開企業となったため、直接的な売上高や市場シェアのデータは公表されなくなっています。しかし、そのNAND事業を引き継いだキオクシアが、引き続き市場の主要プレイヤーです。
- **次世代メモリ(MRAM、ReRAMなど)**は、NANDとは異なる市場で、特定のニッチな用途に特化して成長しています。そのため、NAND市場の巨人たち(サムスン、キオクシアなど)が上位を占める一方で、ロームやエバースピンといった次世代メモリに特化した企業も重要な役割を担っています。
ローム
ロームの決算について、2024年3月期(2023年度)の決算をベースに、要点を表でまとめます。
ローム株式会社 2024年3月期 決算概要
| 項目 | 2024年3月期実績 | 前期比 | 概要・コメント |
| 売上高 | 5,332億円 | -5.0% | 産業機器や民生機器向け半導体の需要減速が影響。 |
| 営業利益 | 565億円 | -26.6% | 売上減に加え、設備投資など先行投資の負担増が影響し減益。 |
| 純利益 | 447億円 | -35.3% | 営業利益の減少に加え、特別損失などが影響。 |
| 今後の見通し | 2025年3月期予想 | 産業機器や民生機器の需要回復が見込まれるが、当面は厳しい状況が続く見通し。 | |
| 主要事業 | パワー半導体、SiC | 自動車や産業機器向けのSiC(炭化ケイ素)半導体事業が成長を牽引。 |
ポイント解説
- 売上・利益の減速: 2024年3月期は、半導体市場全体の調整局面の影響を受け、特に産業機器や民生機器向けの需要が減速し、減収減益となりました。
- SiC(炭化ケイ素)半導体: 厳しい市場環境の中でも、電気自動車(EV)や再生可能エネルギー向けに需要が拡大しているSiCパワー半導体は、ロームの成長を牽引する重要な柱です。同社はSiC分野で高い技術力とシェアを持っています。
- 設備投資と先行投資: 今後の成長を見据え、ロームはSiC関連を中心に積極的な設備投資を継続しています。これが短期的な利益を圧迫する要因にもなっていますが、将来の競争力強化に不可欠な投資と位置づけられています。
- 東芝への出資: 2023年に東芝への出資(約3000億円)を決定しました。これは、東芝のパワー半導体事業との協業を強化し、SiC分野でのグローバルな競争力を高めることを目的としており、中長期的な成長戦略の一部です。
簡潔にまとめると、ロームは短期的に市場の減速による影響を受けていますが、成長分野であるSiC半導体への投資を継続しており、中長期的な成長に向けた戦略を実行している段階です。